ウクライナに想う どうして?今?誰が悪い?

2022年2月25日、ロシアのウクライナ侵略が始まった翌日。キエフにロシアのタンクが迫る。狙いは明らかで、ウクライナのゼレンスキー政権の打倒と傀儡政府の樹立、そして中立条約を締結して、ウクライナをロシアの衛星国にする。フィンランド化である。これがプーチンの狙いで在ろう。クリミア半島奪取はその前哨戦に過ぎず、数年かけて外貨準備を積み上げ制裁への耐久力を養う事を含めて周到な準備を数年かけてやってきた。それはソ連帝国への郷愁と米欧への積年の怨念が如何に強いかを物語っている。

確かに米欧は民主主義が共産主義に打ち勝ち、東西冷戦に勝利したと必要以上に高揚していた。「歴史の終焉」とまで言ってのけたことがその証左だ。その過程で敗者になり、縮小したロシアは蔑ろにされた。米欧は ウクライナの主権尊重を約したブダペスト覚書違反だとロシアを責めるが、私から見るとどちらもどっちと言う感がする。ビスマルクは「ロシアが署名したものは信用すべからず」と述べたと言われているが、同様に米欧の約束も、仮に紙に書いたとしても重みはない。ましてや紙に残してないのなら平気でこれを踏みにじってきた。古くはバルフォア宣言に見られる二枚舌外交である。

ロシアにしてみれば、ベルリンの壁崩壊とドイツ再統一の際、コール首相を始めとする欧州首脳は「ドイツ再統一でもNATOはⅠインチたりとも東には行かない」とゴルバチョフに約束したという。これは紙には残っていない口約束だった。特に後ろ盾の米国はクリントン時代ポーランド等東欧系の票獲得を目指してNATOの東方拡大を推進した。その結果、ドイツ全土は無論の事、東欧全域がNATOに入ってしまい、ロシアは辛くもベラルーシとウクライナの緩衝地帯を挟んでNATOと対峙する結果となった(その後バルト三国のNATO編入でロシアは直接NATOと対峙する)。これはロシアにとって裏切り以外の何物でもなかった。顧みると、NATOは自分たちの価値観の伝播を優先し、主たる敵のロシアとの安全保障をどう構築していくかについて、所詮小さくなったロシアは大したものではないと高をくくってきた。オバマがクリミア侵略を「高々地域強国が近隣との利害調整をしているだけ」と片付けたことが良い例である。確かにNATO・ロシア・フォーラムはあるも大した話し合いはしていない。超難問かもしれないがロシアとの安全保障の枠組みを構築する必要がある。

クリミア侵略後のミンスク合意もロシアにとって、ウクライナの裏切りと映る。ウクライナ東部二州、ルガンスクとドネスクの自治はウクライナが全く実行していない。合意当事者のOSCEもこれを強制する力がなかった。

ウクライナにとってはブダペスト覚書で安全保障確保と核兵器放棄を交換したつもりだったが、裏切られた思いがある。クレバ外相は「1994年の核放棄決定は賢明な判断ではなかった」として、米国に対し「当時約束していた安全保障を履行せよ」と求めたが、バイデンは去年末に早々とウクライナに派兵しないと言い切ってしまい、プーチンに足元を見られた。(覚書での安全保障への言及は単に「国連安保理に即座に行動を起こす依頼をする」類ではあった)核保有国であればウクライナもここまで蹂躙されることはなかったでしょう。

事々左様に約束は精々現状維持と言うのが関の山で、抑々妥協の産物でしかない。

新聞テレビではどうしてプーチンが今こんなことをするのか?と訝しがる向きが多い。これを理解するにはウクライナの地が東西では全く異なる文化から成り立っている歴史を知らなければならない。正教大国を自称するプーチン率いるロシアの影響力の下にある東部と、抑々ポーランドなどのカトリック世界の一部であった西部とウクライナの中で綱引きが常にあった。ウクライナの独立自体が「予期せざる国家」だったという。プーチンは崩壊したソ連を再構築すべく「ロシア世界」を標榜し、ウクライナについては全体を取り込もうとした。そうすることで安全保障上はNATOとの緩衝地帯にもなる。この歴史観と米欧への怨嗟は強烈なもので、これを今回の侵略の動機とすることは十分に説得力がある。勿論タイミング的には中国との連携を確保し、米国の国力低下、特にバイデン政権下での外交上の失態を捉えて直感的に動いたと思われる。

戦後、国連が出来て曲がりなりにも国際法を皆が標榜する時代に、なぜこうも赤裸々な力の行使を、国際世論を無視してやるのだろう。現下の国際政治でプーチンの侵略は、断固糾弾されるべきであり、国際秩序への挑戦として日本としては「彼岸の火事」ではない。明日は我が身と自省すべきである。北方領土交渉は暫し棚上げが適切だろう。他方、ユーラシア大陸の政治文化は依然として力への信奉が極めて強く、又長い物には巻かれろとの哲学が横行しているのも事実である。このような世界に対し原則を前に出して戦っていくことが、日本の第三の開国にも値する戦いではないか。

 

 

 

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