ウクライナ事変は冷戦終結後の世界、また第二次大戦後の世界においても決定的な情勢変化をもたらした。戦後の国際秩序は曲がりなりにも米、中、露(ソ連)の超大国間の力関係と彼らの道徳的自省・責任感によって守られてきたと言っていい。なぜ彼らがその地位を保持したかと言うと一つには自給自足が可能な超大国であるとの事実に加え核保有国であることであった。それゆえに国連安保理常任理事国であり、拒否権を持った。国際情勢をマネージする際に彼らの国益棄損に至る場合はこれに拒否権を発動するが、同時にそれに見合う責任を負ってもらうためでもあった。今回のウクライナ事変が歴史的節目となるのは、ロシアがその責任を放棄し、責任感の根源たる核兵器を威嚇の材料としたからである。ロシア(ソ連)は戦後、自らが関与するような大きな歴史的節目にあっても、拒否権は行使すれども、自らの力の行使にあっては核兵器使用の威嚇は無く、自制が働いてきた。米中も同様であった。第二に、ロシアの侵攻は米国の国力衰退に合わせて行われたことで、米国一極集中が正式に終焉したことを意味している。トランプ政権による米国民主主義の魅力と権威は失墜し、バイデン政権でのアフガニスタン撤退の不始末が駄目押しした。第三に、北京オリンピックでの中露首脳会談でプーチンは習近平の支援を得たと考えた。このことはウクライナ事変でも直接関与しない中国と言う巨大な国の国力を見せつけた。(実は中国はウクライナの安全保障にコミットしている)。今回を機にロシアは中国のジュニア・パートナーと当面なるであろう。他方で中露の対米対抗協力・結託は次第に顕在化してきている。第四に、国連の無力化が又も白日の下に晒された。国連は人道支援はそれなりの役割が従来からあったが、今回、「平和の結集」に基づく総会決議はあったものの、政治解決面での力不足が一段と進んでいる気がする。事はこのような国際政治軍事面に止まらない。スウィフトの適用停止は諸刃の剣であり、例えば中国がCIPS導入をさらに推進して決済圏が分断され、ドル覇権の減退に繋がる可能性が大きい。唯でさえ、実体経済面で一帯一路、AIIBと自国圏構築に邁進している中国を中心とした世界と欧米主導の世界との分断が進む。更に情報面でもSNSからロシアの除外が進むが、中国に対してこれはとっくに進行している。ネット監視能力の向上と共にインターネットによる情報共有は今やグローバルではなくなってきている。では世界は今後如何なる方向に向かうのか?私見では世界はグローバル化と緩やかな分断化とが同時並行的に進行する世界に突入する。そのプレーヤーは米、欧、中、露、印が中核となり、中東(イラン、サウジ、イスラエル、トルコ)、日本、中南米(墨、伯)がその外延で跋扈するだろう。又ノスタルジアを含めて言えば、ロシア帝国、ムガール帝国、中華帝国、オスマン帝国、の復興を目指す動きと重なる。米欧主導のPax Americana/Britanicaへの反動でもある。要は自由・民主主義という米欧主導の理念に基づく文明への反動として、歴史に記帳されてきた地政学の抬頭である。欧州の統治理念は余りにも先進過ぎた。これについていける国は未だ少数でしかない。